祖霊を継ぐ槍 — ナイジェリアの猫騎士
遥か西アフリカ、熱帯雨林とサバンナが交わるベヌエ川の中流域に、かつて『ジャファリの槍』と呼ばれる伝説の守護者が存在した。
その猫の名はジャファリ・オロニム。ベニンの王族の血を引くとされ、ノクの古き土器にすらその面影が刻まれるほどの存在だった。
ジャファリは幼くして族長の命を救ったことで一族に迎えられ、戦士としての訓練を積んだ。彼の手にあったのは「グンナ」と呼ばれる儀礼投槍。祖霊の霊力が宿るとされるこの槍は、ジャファリの呼吸に応じるかのように空を裂いたという。
その姿は、青銅の装飾が無数に打ち出された革の胸当て、ヨルバの王冠を思わせる金のアデ、そしてビーズ細工が縁取る儀礼マント。目にした者は皆、彼が"ただの戦士"ではないことを悟った。
ある年、北から鉄騎の傭兵団がベヌエを越え、村々を焼き払うという報が届いた。年老いた長老たちは震え上がり、祈祷師たちは神託を求めたが、答えを出したのはただ一匹の猫だった。
「我が槍に、祖霊が宿るならば——この地に火を通させぬ」
ジャファリはただ一人、グンナを手に要塞へと向かい、土器と森の精霊を味方に、闇に挑んだ。
数日後、霧の中から彼が戻ってきたとき、槍の先端には燃え尽きた鉄のかけらが絡まっていたという。民は泣き、讃え、彼の名を土器に刻み、語り継いだ。
今もその地を歩く猫の影を見た者はこう囁く。
——それは、ジャファリ。
槍と誇りを手に、祖霊を護り続けるナイジェリアの猫騎士であると。
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