聖山を背に立つアルメニア猫騎士
その猫は"アルトゥン"と呼ばれた。13世紀のキリキア王国、信仰と自由を掲げて戦い抜いた騎士団に連なる血筋を持つ、誇り高き守護の戦士である。
幼き日、アルトゥンはアララト山麓の修道院で拾われ、修道士たちに育てられた。厳しい冬、凍えるような嵐の夜でも、彼は祈りの鐘が鳴ると教会の柱の下でじっと佇み、沈黙の中で人々の心に寄り添っていた。
やがて時は動乱の時代を迎え、山間の村々が略奪に晒される。人々は恐れ、修道士たちは武器を持てぬ己の無力を嘆いた。そんなある日、アルトゥンは修道院の奥に眠る一振りの剣、キリキアン・ブロードソードの前に立った。
誰が教えたわけでもなく、その剣を前足に取った彼の姿は、まさに伝説に語られる古の守護者そのものだった。アルメニア十字の刻まれた鎧をまとい、赤のクロークを翻し、静かに立ち上がったアルトゥンは、無言のまま村の前に現れた侵略者を退けたという。
"剣は声を持たずとも、魂を語る。"そう言ったのは後にアルトゥンの物語を綴った老修道士だった。
アルトゥンの勇姿は今も、アララトを望む丘の上に描かれたフレスコ画として残っている。そして風が鳴る夜、山裾に揺れるクロークの影がひとつ、修道院の鐘と共に現れるのだという。アルメニアの心を守る、永遠の猫騎士の姿として。
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