静かなる誓いの猫騎士 — ベトナムの守護者
その猫は"ゴ・ラン"と呼ばれた。古より続く寺院の石畳を静かに歩み、ハロン湾に朝霧がかかる頃には、彼の姿はすでに見えなくなっていた。\n\nゴ・ランは、黎朝に仕えた伝説の護衛武将"ラン・トゥオン"の魂が転生したと言い伝えられている。祖霊と共にある者のみがまとうことを許される龍の刺繍マントを身にまとい、その身には魚鱗のような青銅の鎧が光る。手には、村と祖先の誇りを守るための剣"ダオ・タップ"が握られていた。\n\nある年、西から来た盗掘者たちが、山奥に眠る霊廟を狙った。霊廟には村の守護神を祀る黄金の蓮像が納められており、それを奪われれば人々の心から信仰と結束が失われてしまう。\n\nゴ・ランはただ一匹、夜の森を駆け、静かにその侵入者たちの前に立ちはだかった。月明かりの中、黒灰色の毛並みが鎧の輪郭と重なり、まるで幻のように浮かび上がる姿は、敵の心に畏れを抱かせたという。\n\n剣を抜かずとも語ることができる誠意と誇り。その瞳に宿るのは\"戦い\"よりも\"護る\"という意志だった。やがて盗掘者たちは去り、蓮像は無事に村へ戻され、霊廟の前では人々が香を焚き、感謝を捧げた。\n\n今もなお、ハロン湾の岩間から差す朝日が強くなったとき、寺院の尖塔に一瞬だけ\"黒き影\"が浮かぶという。それは、今もベトナムの大地を見守り続ける猫騎士、ゴ・ランの魂だと信じられている。
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