誇り高き月影 — モロッコ猫騎士の誓い
アトラスの山陰に、月の加護を受けた一匹の猫がいた。名は\"バシュール\"。フェズの細道で拾われ、やがてマラケシュの騎士団に加わった孤高の戦士である。\n\nバシュールは、生まれ育ったスークの片隅で仲間を守るため、小さなジュンビーヤを手にした。それはただの武器ではなかった。父が遺した銀細工の一振りで、家族の名誉と絆の象徴でもあった。\n\nある夜、青の街シャウエンに忍び寄る火の手を察知したバシュールは、ただ一匹で立ち向かった。白いジュラバを風に舞わせ、月明かりを受けて光る半月の兜を戴いたその姿は、まるで伝説の守護者の再来のようだった。\n\n群がる敵を前にしても、バシュールの眼差しは揺るがなかった。ジュンビーヤは空を裂き、誇りの刃は沈黙のうちに火を鎮めた。翌朝、カスバの城壁には傷一つなく、アーチには花束が供えられていたという。\n\n今も市場の片隅に佇む石像の前で、旅人たちは祈る。「風のように現れ、静かに去った月影の守り猫、バシュールに導かれんことを」と。彼の誓いと優しさ、そして静かなる強さは、モロッコの空気の中に生き続けている。
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