油彩に宿る静かなまなざし

この三毛猫の名は「こはる」。 江戸の片隅、ひとりの絵師が暮らす長屋にひょっこりと現れた迷い猫だった。最初は警戒心のかたまりで、屋根の上から絵師の様子を伺っていたこはる。しかし、絵師が毎日静かに筆を取り、同じ場所に置く魚の切れ端を残すうち、少しずつ心を開いていった。 やがて、絵師の作業机のそばがこはるの定位置になった。陽の光が差し込む午後、静けさのなかで絵師と猫がただそこに「いる」。それだけの時間が、何よりも尊いものに思えた。 この作品は、そんな穏やかな午後のひとコマを切り取った一枚。こはるの視線には、絵師への信頼と、どこか遠い過去を見つめるような静かな情感が宿っている。 色調は落ち着いた茶と金を基調にまとめられ、まるで時間が止まったかのような感覚を与える。描写は写実的でありながら、柔らかな筆致が見る者の心を解きほぐすような温かみを湛えている。