霧の森で差し出された一手

霧が立ちこめる深い森。その静寂のなか、ふと視界に現れたのは一匹の猫──銀色の毛を纏うロシアンブルー。彼の名は"シエル"。\n\n濃い霧に包まれた朝、森の奥から微かに射し込むサイドライトがシエルの毛並みを淡く照らす。その姿はまるで霧の精霊が具現化したかのよう。\n\nそんな幻想的な空気の中、シエルはそっと前足を差し出す。まるで「こんにちは」とでも言いたげに。\n\nそれは偶然出会った旅人の心を射止めるには十分だった。冷たく湿った空気のなかで、その仕草があたたかく、どこか懐かしい感情を呼び起こす。\n\n旅人はしゃがみこみ、そっとその足に手を重ねた。「……君の名前、聞いてもいい？」\n\n森に響いたのは、静けさの中のやさしい声。そして、物語はそこから始まった。